作業環境測定、化学物質管理の近未来予測・更新情報

2022/01/19
「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」報告書で提案している化学物質対策のフローチャートとその解説を掲載しました
2022/01/18
講演動画「職場における化学物質規制の見直しについて」を掲載しました
2022/01/04
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「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」報告書が公表されました

既報のとおり、厚生労働省は、2021年7月19日に「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」報告書を公表しました。
この報告書による化学物質規制の見直しは、以下にご説明するように測定制度に関しても大きな影響をはらんでいます。
詳細は、現時点で決まっていないことが多いのですが、厚生労働省は、今後、年度末をめどに細目を整理・決定する予定です。

解説

本件は、特に以下の点で今後の作業環境測定制度、作業環境測定士および作業環境測定機関の業務に大きな影響を及ぼす可能性を含んでいます。

  1. 5年後に特化則、有機則、鉛則等を廃止する予定であること(ただし、さらに5年存続し、10年後に廃止する可能性もある)。
  2. 国が「ばく露限界値(仮称)」を定める有害物について、事業者に「労働者がばく露限界値を超えて有害物にばく露しないよう、実測またはその他の方法により管理すること」を義務付けること。
(注) a. 「ばく露限界値(仮称)」とは、管理濃度やACGIHによるTLV-TWA(8時間時間加重平均濃度)などと同様の概念と想定され、具体的には、管理濃度と同じく、ACGIHのTLV-TWAなどをそのまま引用して法的に位置付けることが想定されます。
b. 国が「ばく露限界値(仮称)」を定める有害物は、すでにACGIHのTLV-TWAが存在する674物質(SDS交付や表示、リスクアセスメントを義務付けている安衛法施行令別表第9の物質)が当面考えられます。
c. 実測の方法としては、A・B測定、C・D測定および個人ばく露測定が想定されています。また、「その他の方法」(実測によらない方法)としては、CREATE-SIMPLEなどのシミュレーション法が想定されています。

論点

上記1・2に関しては、具体的に次のような重要な論点が考えられます。これらについて細目は現段階で未定であり、国は年度末(2022年3月)までに検討・整理する方針としています。

  1. 上記1に関して
    特化則等が5年後に廃止されると、その時点以降、現在の労働安全衛生法第65条に基づく特化物等の指定作業場の定期測定はどうなるのか。なくなることがあるのか。
  2. 上記2に関して
    新たに事業者に義務付けされる「ばく露限界値(仮称)以下の管理」は、実測またはその他の方法で行うこととされているが、具体的にはどのような場合に実測が義務付けられ、どのような場合は実測でなくてもよいのか。
    実測は、現在の指定作業場のように作業環境測定士による測定が義務付けられるのか、あるいは、溶接ヒュームの測定のように測定士以外の者でも可能とされるのか。
    674物質のうち、現在測定義務がある特化物、有機溶剤等約100物質を除き、多くの物質には測定法が定められていないが、これらについて実測を行う場合はどうするのか。

当協会では、これらの動向を速やかにメールマガジンや会員専用ウェブサイト、機関誌等を通じて情報提供しておりますので、ご留意をお願いします。


講演動画「職場における化学物質規制の見直しについて」

2021年11月18日に行われた第42回作業環境測定研究発表会における特別講演(樋口政純・厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課 課長補佐)の模様を掲載しました。

「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」報告書で提案している化学物質対策のフローチャートとその解説

「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」報告書で提案している化学物質対策について、その根幹部分をフローチャートでお示しします。以下の解説とともにご参照ください。

解説

  1. 国は、有害性データが存在する物質で未規制のものについて、そのデータに基づいてGHS分類(有害性の種類とその程度に応じて分類すること)を行うとともに、その物性データなどとともに「モデルSDS」としてまとめます(令和3~5年で1,800物質余についてモデルSDSを作成、最終的に2,900物質余について作成の予定)。
  2. 国は、「モデルSDS」を作成した物質を労働安全衛生法施行令別表第9〔その物質を他人に譲渡提供する者が容器・包装に表示を行うとともに、相手に安全データシート(SDS)を提供しなければならない物質。また、事業者がこれらを使用する作業に関しリスクアセスメントを義務付けられている物質でもあります。現在は674物質が該当〕に追加します。
  3. 事業者は、これら令別表第9に加えられた物質ついては、2の「モデルSDS」を用いて、その取り扱い作業に従事する労働者に対する当該物質によるリスクの評価(リスクアセスメント)を行わなければならないことになります(これは、現在の労働安全衛生法第57条の3の規定による義務です)。
  4. 国は、3のリスクアセスメントの結果に応じた改善措置の実施を新たに事業者に義務付けます(現在は、義務付けなし)。この改善措置として具体的に何をするのか(例えば局所排気装置を設置するのかなど)は、法令で定めず、事業者の判断・選択に任せます。
  5. 国は、1日を通じた労働者の平均ばく露がその値を超えてはならない値として「ばく露限界値」(OEL:Occupational Exposure Limit)8時間の個人ばく露濃度の平均値と比較する「許容濃度」やTLV-TWAがこれに当たります)を法令で定義し、2の「モデルSDS」を作成した物質のうち、ばく露限界値を定めることができるものについて、具体的に数値を示します(「OEL」は、動物実験などによる検討が必要で、簡単に設定できるものではないため、米国のACGIHがTLV-TWA(8時間のばく露の時間加重平均値に対する「ばく露限界値」)を公表している物質について、その値を追認してほぼそのまま用いるのではないかと想像されます)。
  6. OELを定めていない物質については、リスクアセスメントを行っても基準値とするものがないので、国は、「できるだけばく露を低くするように管理する」という抽象的な対応を示しています。一方、OELを定めた物質については、国は、新たに事業者に「労働者のばく露をOEL以下に管理する」ことを義務付け、これを確認する方法として以下の三つを示し、このうちできるだけ実測による方法(aおよびb)が望ましいとしています。
    a. A・B/C・D測定
    現在、作業環境測定基準により指定作業場に対し実施している方法
    b. 個人ばく露測定
    個人サンプラーを労働者に装着して原則8時間にわたり測定し、結果をOELと比較する方法
    c. CREATE-SIMPLE
    コントロールバンデイング法を発展させた推計法(実測は行わない)
  7. 6の三つの方法について、事業者の選択の方法(優先順位を設けるのか、事業者の任意とするのか)、確認の頻度(年1回か、6月に1回か……)は、未定であり、これから決まりますが、中小事業者が利用しやすいようCREATE-SIMPLEを優先的に用いる可能性があります。このため、スライド4では、仮にCREATE-SIMPLEが優先的に用いられる場合の予想されるフローをお示ししました。この場合は、まずCREATE-SIMPLEによる確認だけでOEL以下の管理がなされていると認めて問題ないと思われるもの(確認OK)は実測から除かれ、それ以外のもの(確認不十分)についてのみ実測による方法を行うことになります。
  8. 懸念される点
    (1) 事業者の実施が確保できるか
    測定に関しては、現在の法65条による指定作業場の作業環境測定は、原則5年後に廃止され、このOEL以下の確認のための実測法のみとなる可能性が否定できない状況です。その場合、新たな義務付けである「OEL以下の確認」は、国が十分な監督指導により事業者の実施を徹底できない場合には、平成28年のリスクアセスメントの義務付けがあまり順守されていないように、これも実際には守られない懸念があります。そのような事態になれば、事業者が測定を測定機関に依頼する件数も少なくなると思われます。
    (2) CREATE-SIMPLEの濫用
    事業者は、OEL以下に管理するという新たな規定に対し、これを遵守する意志のある事業者においても、コストがかからない「CREATE-SIMPLE」などの推計法に頼り、実測による方法を回避する傾向が考えられます。しかし、「CREATE-SIMPLE」は、あくまで推計法にとどまり、その信頼性は、実測に比較できるものではありません。このため、CREATE-SIMPLEの適用については、CREATE-SIMPLEの適用によるばく露の推計結果が十分に低いなど、それで確実にOEL以下の管理がなされると認められる場合に限って確認OKとし、それ以外の場合は実測を義務づけるべきであると考えられます。また、CREATE-SIMPLEは、用いる数値の条件などについて十分理解しないままこれが安易に用いられること、結果を人為的に変えること等のおそれがあることから、自らの事業場所属の者により行われる場合は、結果について信頼性が伴わないおそれがあります。このため、労働者の健康確保における本件の重要性にかんがみ、作業環境測定士等の外部専門家が実施するか、外部専門家の指導の下に実施させることが必要と思われます。
    (3) 測定士の関与の範囲
    「OEL以下の管理」の確認のための実測法(6のa、b)は、その専門性にかんがみ、当然に作業環境測定士が実施すべきものと考えますが、現在の国の法的整理では、指定作業場の測定として作業環境測定士のみができることとすることについて確定していません。仮に測定士の専管業務とできないような整理が行われた場合には、現実問題として、作業環境測定士以外の者による実施は困難であるので、国は溶接ヒュームの測定同様、通達により測定士による実施を指導することになるのではないかと想像されます。
    (4) OEL以下の確認の実施頻度がどうなるか
    OEL以下の確認は当然に1回やればそれで済むものではありませんが、その実施頻度がどのように設定されるかが重要です。これによって、事業場が測定機関に実測を依頼する場合の仕事量が大きく左右されることとなりますので、留意が必要です。