作業環境測定士の皆様へ ―放射線の風評被害に留意し、真のリスクコミュニケーションを取り戻そう―

2011. 4. 11 日本作業環境測定協会

  • 最近、福島や関東での大気中の実効線量や野菜、水などの放射能量などが発表される中で、これら数値に惑わされ、安全上問題のない商品の買い控えや被災地域に行くことを厭うなどの行動が見られます。放射線という未知のものへの恐れからこのような行動パターンを取ってしまう人が多いと思いますが、ここで重要なのは、専門家が自覚と責任を持って正しいリスクコミュニケーションを心がけることです。
  • 現在、東京電力福島第1原子力発電所における原子炉の管理状況は、残念ながら一進一退であり、まだ、終息に向かうと言える状況にありません。したがって、水や野菜等の放射能量や大気中の実効線量等が平常の値よりも高い状況が今後もかなりの期間続くことも考えられます。
    そのような時にこそ、これ以上被災された皆様を苦しめないために、測定士の皆様も真のプロフェッショナルとしての役割を果たしていただきたいと思います。
  • マスコミなどで専門家のコメントを聞いていると、「平常の値より高いが理論的には健康上問題のあるレベルではない」と言い切ることがなかなかできず、「しかし、やはり避けるに越したことはない」という一句を付けてしまうことが多いように思います。このコメントは、EUなどの「予防原則」や国際放射線防護委員会(ICRP)のALARAの原則(as low as reasonably achievable)にも通じる考え方であり、誤りではありません。放射線は無用にばく露すべきではないのもその通りです。しかし、この解釈にとらわれすぎることが買い占めや風評被害への行動を生んでいると思われます。これを聞いた人は、「避けるに越したことはない」とのコメントに引きずられて、少しでも安全側の行動パターンを取るからです。
  • 現実に買い占めや行き過ぎた風評被害を生んでいる現在の状況を考えれば、通常は許されるであろうこのような素朴な議論でなく、リスク論に基づいた、より正確な説明を行わなければなりません。 これから、時間をかけてもこのような正しいリスクコミュニケーションを取り戻す責任が、原子力や放射線の専門家にはあるでしょう。
  • 今回起こっていることの少なからぬ部分は、健康への影響を心配するに及ばない安全の余裕度が十分にある範囲での混乱した解釈や素朴な不安が原因のように思われます。
    我々も、真の科学的良心とプロの技術者としてプライドを持ち、非科学的な行動に付和雷同し、被災地の皆様をこれ以上苦しめることに加担することがないように、また間違った行動を正す役割を積極的に演じることを期待しております。

放射線あるいは放射性物質の人体への影響に関して―作業環境測定関係の方々へ―

東北地方太平洋沖地震および津波の影響で、福島第一原子力発電所が大きな被害を受け、放射性物質の漏えいが続いています。

作業環境測定士の第1種資格にも「放射性物質」がありますが、「粉じん・特化物・金属・有機溶剤」とは異なり普段あまり馴染みのない分野でもあり、作業環境測定関係者におかれましても、今回の事故による放射線被ばくおよび健康への影響に関して不安を感じる向きもあるかと存じます。

放射線あるいは放射性物質に関しては、各種メディアにおいても報道されておりますので、よくご理解いただいている方も多いとは思いますが、ここで簡単に説明いたします。

今回考えられる放射線への被ばく*には、事故現場の原子力発電所から直接出ている放射線への被ばくと、放出された放射性物質から出る放射線への被ばくが考えられます。
* この場合の「ばく」は「曝露」の「ばく」であって、原爆の「ばく」ではありません。

電離放射線の種類には、「アルファ線」「ベータ線」「ガンマ線」「中性子線」がありますが、「アルファ線」は透過力が極めて弱く空気によって容易に遮断されます。「ベータ線」は高エネルギーのものもあるので注意が必要ですが、アルミ板などによって遮断されますので、遠方に到達しません。「ガンマ線」と「中性子線」については透過力は強いのですが、放射線量は発生源から離れれば急速に弱まります。すなわち、発生源から1メートルの地点における放射線量を1とすると、2メートル離れれば4分の1、100メートル離れれば1万分の1、1キロメートル離れれば百万分の1となります(距離の2乗に反比例)。

したがって、原子力発電所から直接出ている放射線(直線放射線)については、事故現場で作業している作業員にとっては深刻な問題ですが、外部の住民にとっては健康影響は問題にならないと考えられます。

現在、関東地方等の事故現場から遠隔の地域で検出されている放射線は、風などによって事故現場から運ばれた放射性物質によるものです。したがって、このような放射性物質は発生源の風上では少なく風下では多いということが一般的に言えます。

被ばく量は放射線の強さと被ばく時間の積によって決まります。原発事故現場での放射線量として400ミリシーベルトとの報道もありましたが、これは仮に1時間被ばくし続けた場合400ミリシーベルトの被ばくとなる放射線量を公表しているようです。

医療による年間(全身)の最大許容被ばく線量が50ミリシーベルト(手・足だけなら200ミリシーベルト)とされていて、これは、国連科学委員会(ICRP)によって現在及び将来においても健康を損なうおそれがないと言われている被ばく量です。したがって、被ばく量が100ミリシーベルト程度になると健康影響の懸念が出てくると新聞等で報道されています。

健康診断等により我々も被ばくしますが、その量は、集団検診における胸部X線検査で1回当たり約0.2ミリシーベルト、胃部X線検査で4ミリシーベルト前後、胃の透視検査では10分間実施すると約10ミリシーベルトとされています。

誰でも受けている自然放射線による被ばくは、日本では年間1~3ミリシーベルト程度ですが、世界的に見るとこの何倍もの自然放射線を受けている人もいます(特に高地)。しかし、そのような人々でがん等の発病率が高まるという事は一切ないとされています。

現在関東各地で検出されているとして報道されている放射線量はマイクロシーベルトのオーダーですが、上記のような科学的に検証されたデータからみて、マイクロシーベルトオーダーの被ばくがあったとしても健康への影響を心配する必要はないものと考えられます。

体の外部の放射線を被ばくすることを「外部被ばく」と言いますが、放射性物質を体に取り込むと体内から放射線が出ることになりますので「内部被ばく」と言います。「内部被ばく」の場合、「アルファ線」も「ベータ線」も遮へいされずに照射されることになりますので、放射性物質が体内に取り込まれるような状況はできるだけ避けたほうがいいでしょう。ただし放射性物質には半減期があり、現在最も多いとされている「ヨウ素131」では、8日ごとに放射線は半減していきます。

現在、一部外国人において国外へ出る動きがありますが、パニックに陥ることなく科学的データに基づいた冷静な行動が望まれています。

なお、放射線の人体影響についての比較的わかりやすい説明が、下記のホームページで参照できます。

放射線の測定などに関する相談窓口

2011年 4月7日

放射線測定や放射線による各種影響については、下記の当協会会員測定機関にご照会ください。
ただし、下記の点についてはあらかじめご了承のほど、お願い申し上げます。

(1) 会員機関は、通常は事業場の空気中の放射性物質の量の測定を専門としており、ご質問のすべてについてお答えできるとは限りません。
(2) 災害復旧対策や専門人員の留守等で対応できない場合もあります。
会員番号 機 関 名
担当部署
住 所 TEL
FAX
204004 北日本環境整備(株)
技術課
983-0833 仙台市宮城野区東仙台1-18-26 022-252-3863
022-252-9277
213049 環境保全(株)
環境事業部
192-0045 東京都八王子市大和田町2-4-14 0426-60-5979
0426-60-5969
213056 (株)イング 120-0043 足立区千住宮元町14-1 03-5813-5710
03-3881-1171
223006 (株)テクノ中部
原子力事業部 原子力部
455-8512 名古屋市港区大江町3-12 052-614-7163
052-614-7468
223044 日本空調サービス(株)
環境管理部
465-0042 名古屋市名東区照が丘239-2 052-773-9885
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※ 2011.4.7現在で掲載の承諾をいただいた測定機関のみご紹介しています。
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